2020.
9.17水
文化事業と観光事業はどう関われる? 楽しみながら茨城を知る方法。STAND TOKYO
9月のSTAND TOKYOは、地域でプロジェクト事務局を運営している二人が登場。長く続く地方イベントの運営に関わり、訪れる人や地域の変化を見てきた視点から、そして作家としての目線からも、地域×アートの関わりについて語って頂きます。
ダイジェスト
▼新潟 大地の芸術祭運営(NPO法人越後妻有里山協働機構)飛田晶子さんの活動
学生時代に大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレに、ボランティアスタッフ「こへび隊」として参加したことが大地の芸術祭に関わるきっかけに。新潟県に移住後は、NPO法人越後妻有里山協働機構に所属し、芸術祭の運営に関わっています。
◆大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ
大地の芸術祭は、新潟県・越後妻有の里山を舞台に、3年に1度開催されている地域活性を目的とした芸術祭。2000年のスタート時より「人間は自然に内包される」という一貫したテーマの元に、この土地が育んだ、文化や場所・自然に調和する、食やアートを発表しています。
初回の開催当初、第3回目まで開催することが目標だったこの芸術祭は、年々認知を深め、越後妻有エリアの市町村から「芸術祭を続けたい」との声が上がるようになりました。それを受け、NPO法人越後妻有里山協働機構と市町村の協力の元、運営は継続。現在までに7回開催の実績を持ちます。
越後妻有というエリア
舞台となる越後妻有は日本でも有数の豪雪地帯。首都圏から比較的アクセスしやすい越後湯沢の駅から、さらに電車で約1時間のところにあります。似た条件を持つ他の豪雪地域に比べれば、暮らしている人の数は多い方とされているようですが、それでも飛田さんが移住した当初約3000人だった人口は年々減り続け、現在では2000人を切っているそう。地域の将来像に不安を持つ人も少なく無いと言います。
地方への関わり方 地方での受け入れ方
現在は新潟に移住し、NPO法人として芸術祭の運営に関わる飛田さんですが、最初にこの場所を訪れたのは、大地の芸術祭のボランティアスタッフ「こへび隊」としてでした。
「当時私は大学生で、専門的な事は何もできませんでしたが、越後妻有の『大地の芸術祭』は誰にでも門を開いてくれたんです。現地で沢山の事を教わり、体験させてもらいました」
当時を振り返って、現地で人との繋がりが生まれたことが面白く、それに「ハマった」と回想する飛田さん。繰り返しこへび隊として芸術祭に参加するようになったそう。今でも芸術祭は地域の内外の人に支えてもらいながら続いているのだと話します。
受け入れることへの意識が変わる
こへび隊として、地方に関わった事で、様々な事を学んだという飛田さんですが、飛田さんのように、他の地域からやってくるボランティアを迎えた越後妻有の住人たちの反応はどのようなものだったのでしょうか。地域の人の反応は、だんだん変わってきた、と長く越後妻有に関わる飛田さんは語ります。
「当初地域の人も、『ボランティアスタッフに挨拶はして良いのだろうか…』と悩むくらい、関わり方も手探りの状態。それがだんだんと、『作業が大変そうだから』とお水を差し入れてくれたり、お話をしに来てくれるようになったんです」
ボランティアの受け入れを繰り返すうち、徐々に地域外の人との距離を縮めていって越後妻有の住人達。外部の人を迎え入れることに対する意識はこの20年で大きく変化しました。
その変化は、2009年から始まった地域おこし協力隊制度の導入にも大きく現れ、越後妻有エリアの市町村の一つである、十日町市の地域おこし協力隊受け入れ実績は、日本で一番多い記録を持つのだとか。
▼茨城 「陶と暮らし。」実行委員長 馬目隆弘さんの活動
笠間焼きで知られる街、笠間市で、約20年間陶芸家として活動を続ける馬目隆弘さん。
「暮らしに寄り添う手仕事」をキーワードに笠間地域ゆかりの陶芸家たちによる新作発表や物販、ワークショップが行われるクラフトフェア「陶と暮らし。」を主催しています。
◆陶と暮らし。
馬目さんが実行委員長を務める、「陶と暮らし。」は、次回開催で10回目を迎えるクラフトフェア。同じく笠間で開催される陶器市・陶炎祭(ひまつり)と同様に、馬目さんら陶芸家達の手によって運営されています。
出展するメンバーたちは、茨城県内で作品の製作を行なっていたり、過去に笠間で修行をしたことがあるなど、茨城にゆかりのある人。
出展者たちで、イベントのテーマや企画を考えて実行しており、最近では「つくるがみえる」というテーマのもと、各作家のブースで作品の製作シーンをみてもらう、という企画が行われました。
これが笠間の気風
このように作家達が自らイベントを企画し運営するというスタイルは、笠間で行われるイベントの特徴なのだと馬目さんは語ります。
特に、陶と暮らし。はその色が強く、企画と当日の設営や運営はもちろん、パンフレット制作や広報なども全て出展する作家達が行なっています。
これが、笠間の気風なのだ、と馬目さん。
「笠間はもともと、ものづくりに携わる人材が豊富な地域。イベントを行うにしても、ただ会議机の上に商品を並べようとはならず、『工夫しよう!』と思う気風が笠間にはあるのです」
笠間というと、陶芸家が多く住むイメージがありますが、その風土や気風が好まれ、陶芸家以外にも鉄やガラスを使って作品を作る作家や、木工作家も多くいるのだとか。
自分たちで、工夫し実行するという感覚が、当たり前のように染み付いている土地なのだそうです。
作家さんと繋がるには
笠間という土地や笠間に住む人の面白さを知る人は、アートに自ら関わりたい、イベントに興味があり作家さんたちと繋がりたいという人も多いかもしれません。
しかし、馬目さんが語るように「陶芸家はもともとリモートワーカー」。普段の生活の中で、なかなか接点を持つことは難しいかもしれません。
また、コロナ禍によりイベントの機会も減ってしまった昨今、一般の人たちが繋がりを持つことは、できるのでしょうか。
「東日本大震災の後、作家達の間でもSNSが急速に広まりました。今は自らでTwitterやInstagramで情報発信をしている作家がとても多いので、SNSを利用して情報を得たり、交流をもつのも良いかもしれません」と馬目さんは話します。
震災によるイベント中止などを受けて広まったSNSが、このコロナ禍で、また繋がりの一助となっているようです。
Q 「地域に関わってみたい」という人に向けて、気をつけるべきこと、大切にしたいことを教えてください
飛田さん:
自分の「物差し」は置いておいて、ニュートラルになることです。物差しを持たずに地域に入っていく方が、よりその地域を楽しむことが出来ますから。一から、その地域の事を吸収していくのが面白いんです」
馬目さん:
自分から行動をすることで情報を得ることが出来ると思います。笠間は特に、イベントが多いので個人作家は比較的収入につながりやすい。でも、工夫をすることは大切で、ただ作品を作れば売れる訳ではありません。SNSで発信するなど『自分で自分のファンを掴む』ための行動が重要になってきます。
最後に
観光地をめぐる旅行よりも、すこし踏み込んで地域を見てみたい、地元の人と深く関わってみたいと感じている人にとって、地域でのアート資源を活用したイベントは、地域と関わる最初のきっかけになるかもしれません。
地域の内外の人が、アートやイベントを通して関わり、その体験を通して、お互いの意識が変わっていくというお話は、とても勇気付けられるエピソードでした。
知らない土地や人と関わることに不安がつきものですが、まずは、自分から行動をし、積極的に関わろうと動くことが、大切な一歩になるのかもしれませんね。